任天堂の社長、岩田聡(いわたさとる)氏がご逝去されました。享年55歳、なんという若さだろう。
一昨日にお通夜、昨日葬儀が行われたそうだ。ご冥福を祈りたい。
私は岩田聡氏と直接の面識はない。だが、大人になった今でも、ゲームを愛する大人として、そして、一人のビジネスマンとして、この衝撃をうまく言葉に表すことができない。
この投稿の目次
ファミコンと共に育った半生、任天堂と私
私が任天堂に初めて触れた記憶は小学校3年の時だ。
任天堂ファミリーコンピューター、通称「ファミコン」を父が買ってくれて以来、今に至るまで「ゲームが大好き」である。二児の父となった今では、プレイする時間こそは大分減っているが、ここ1年で10本程のゲームを購入し、5本程をクリアしている。
そんな私にとって「ゲーム」×「ビジネス」、または、どちらの側面から見ても、岩田聡氏は傑出した人物に見えた。そして、そんな彼が率いる任天堂が大好きであり、今もその気持ちは変わらない。
岩田聡氏が残してきた数々の軌跡は常に同じ方向を目指していた。
そして、御自らが先頭に立ち邁進する姿に魅せられるのだ。
どうしてそう考えるに至ったのか?今日はその経緯を少し、書きたい。
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ゲームが大好きなビジネスマンから見た岩田聡
「ゲーム人口の拡大」というテーマに全身全霊を傾けた人生
2002年6月1日、「HAL研究所」という開発会社、いわゆる「外」から入った人間が、任天堂の社長に抜擢された。岩田聡氏である。この人事はまさに青天の霹靂で、当時は大きな話題となった。
社長に就任して以来、彼は「ゲーム人口の拡大」をテーマに掲げる。
その当時の話は以下のエピソードに記されている。
「ゲームをする層を広げなければいけない。そうしないと,おそらく我々はゆっくり死ぬんだ」と思いました。これは恐怖でした。パイがどんどん小さくなっているとしたら,業界で一番になっても死ぬのが先延ばしになるだけです。死ぬのを延ばすために社長をするのはイヤでした。だから「ゲーム人口の拡大」を大きな目標として掲げることにしたのです。
「ゲーム人口の拡大」を実現するための歩み
その後、彼自身が旗を振りながら、積極的にメディアにも露出をし、E3やゲームショウなどに積極的に登壇してきた。そして、私の中で、言葉を刻んできた代表たるコンテンツこそが2006年9月に始まった「社長が訊く」である。
「社長が訊く」から見える岩田聡氏
社長が訊く
任天堂の各ホームページで展開している、さまざまなプロジェクトの経緯や背景を社長自らが開発スタッフに訊くインタビュー企画「社長が訊く」。
任天堂のカンブリア宮殿
言ってしまえば、「社長が訊く」は任天堂の「カンブリア宮殿」だ。
任天堂のゲームビジネスに限定したビジネス・ライブ・ショーである。
司会が村上龍&小池栄子ではなく、岩田聡であり、「社長が聞き役に徹する」という切り口で、様々な企画を紐解いてゆく。我々ゲーム大好きなビジネスマンにとって、これほど楽しい読み物は滅多に無いといっも過言であるまい。
もちろん「社長が訊く」の対象は、ゲームだけにこだわらない。
ハードウェア、Wiiや3DSの設計に至るまで、任天堂が手掛けたさまざまプロジェクトすべてがその対象だ。
そして、そのライブの中で、開発者やスタッフ面々が顔をそろえ、ゲームが生まれるまでの経緯、ビジネス的な知見や営業の判断、そして、ちょっとした裏話を語る。これが面白くないわけがない。(私的にですが)
「岩田聡」という人物が見える企画
「社長が訊く」の中で岩田聡氏が司会を務めるが、その進行の名司会者ぶりは素晴らしい。
そこには、毎回、岩田聡氏の人柄・思慮深さがにじみ出ているのだ。
「社長が訊く」といえば、多かれ少なかれプレッシャーを与えてしまいそうなものだが、その柔らかい言葉と雰囲気(これも彼の持つ才能なのだろう)で、話の流れを作り、我々読者に解るように合いの手を入れ、時に巧みに開発者の言葉をほどいてゆく。
少し例を拾ってみよう。3DSの本体機構設計編の一幕である。
後藤
開発技術部 機構設計グループの後藤です。
いま輿石さんから話がありましたように、
今回のプロジェクトでは、機構の実設計を担当して、
コンセプト設計の初期の段階から
最後の量産設計までかかわりました。岩田
これを読んでいただいている人のなかには、
「機構設計」と聞いてもピンとこない方もおられると思いますので、
どういう仕事なのかを紹介してもらえますか?後藤
はい。ひとことで言うのは難しいのですが、
外装をデザインする人の要望を聞きながら、
たくさんの部品を本体のなかにうまくレイアウトして、
きっちり詰め込むようなことを行う仕事です。岩田
つまり、デザイナーのチームから
「こういう形のゲーム機をつくりたい」というアイデアが提案され、
それを実際に量産できるようにするために
どんな部品構成にして、それらをどのように並べて、
どうすれば組み立てやすくなるのかを考えながら、
さらにどこが強度的に強かったり弱かったりするのか、
といったことなどを検証しながら進めていく仕事なんですよね。
実にわかりやすく、具体的な話に落とし込んでくれる。
この回は3DSの開発秘話であるが、子供達皆が持っている3DS本体が、どういう設計・発想で作られたのか?岩田聡社長自らの司会進行の元、徐々に紐解かれてゆくのである。うん、これはハマるよね。
私はリアルタイムでこの更新を閲覧し、会社の通勤時の楽しみの一つだった。
「社長が訊く」の連載期間と2015年再開の言葉
この「社長が訊く」は、2006年9月から、2015年まで続いていた。(2015年6月24日に公開されたファイアーエムブレムifが最後の回となっている)
2014年は更新無しであったが、2015年2月13日公開された『ゼルダの伝説 ムジュラの仮面3D』で再開の際、次の言葉で始まっていた。
みなさん、こんにちは。任天堂の岩田です。
昨年は一度も「社長が訊く」を公開しませんでしたので、
みなさんにお届けするのは、本当にひさしぶりになります。
昨年、わたしは病気をして手術をしましたので、
そのことが「社長が訊く」が新しく公開されていない理由だと
感じておられたみなさんも多いかもしれません。
ただ、実際のところ、わたしは、自分の病気のことを知る前から、
「少しお休みをいただいて充電しよう」と思っていたんです。
昨年の終わりごろから、「そろそろ再開させてもらおう」と考え、
「最初にどのソフトではじめたらいいのか?」と考えていたときに
『ゼルダの伝説 ムジュラの仮面』のリメイクを発表したときの
とても大きな反響に、わたし自身もビックリして、
このソフトで再開しようと決心しました。
この記事から、半年も経たないうちに岩田聡氏が亡くなられてしまった。。わずか半年である。。
2015年から、再開し、また、いつものように読み続けられると思っていた。
しかし、それが叶うことはなかった。
「社長が訊く」ピックアップ
毎回、実に興味をそそられる「社長が訊く」ではあるが、ここでは今回後任として目される二人が登場する回を紹介しておこう。
社長が訊く『PUNCH-OUT!!』
今回、岩田氏が亡くなられた後任として名前が挙がった「竹田玄洋」氏、「宮本茂」氏が登場する対談。
二人の関係も垣間見える。また、ゲームの面白さの追及と、会社の課題の両方を追いかけた名談。
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岩田聡 × 糸井重里 × 宮本茂
前述の「社長が訊く」では名司会者として手腕を発揮する岩田聡氏であるが、それが実にフラットになる時がある。
そう、それが「糸井重里」氏、「宮本茂」氏との対談だ。
MOTHERの糸井重里、マリオの宮本茂
コピーライターであり、現在はほぼ日を手掛けていて、MOTHERの親でもある糸井重里氏。
マリオ、ゼルダなどのゲームデザインを手掛けてきた宮本茂氏。
「社長が訊く」が、ゲームビジネスが形になるまでをライブ的に引き出したコンテンツであるのに対し、この対談は、仕事で実績と経験を積み重ねた「先輩たち」の物語だ。
※正直「先輩」と呼ぶのも恐縮であるのだが、敢えてそう呼ぼう
形がないものを形にして届けるまでに、どんなフローを辿り、どんな事を考えているのか。今までの経験、過去の失敗を引出にしまい、そして、またそれが出てくる時はどんな時なのか。
どの対談でも、冒頭の掲げた「ゲーム人口の拡大」に挑む彼の真摯で思慮深い姿がうかがえる。
そして、対談の中に窺える確かな信頼関係。
長年に渡る仕事で共にさまざまな苦難を乗り越えてきたのだろう。それが並大抵な物で無い事は想像するに難くない。
それはなんと素敵な関係なのだろうか。
ここではそのいくつかの対談を紹介して、筆をおこうと思う。
鼎弾:岩田聡 × 糸井重里 × 宮本茂
- ゲーム機の電源を入れてもらうために。
- 宮本茂はどういうふうに構造を作っていくのか。
- MOTHER3を待っていてくださった皆様へ
※岩田聡氏が決定したプロジェクト中止について
これは貴重な「MOTHER3プロジェクト失敗」と同時に、「中止の決断」の物語である。 - 社長が訊く より
- 『ゼルダの伝説 スカイウォードソード』特別編:糸井さんとのクリエイティブ雑談。
- そういうわけで、ニンテンドー3DSはできた。
最後に。
岩田聡氏、私はファミコンと一緒に育ち、大人になった今でもゲームが大好きです。
そして、私の二人の子供達もゲームが大好きです。まったくと言ってもいいほどゲームをしなかった妻も、WiiスポーツリゾートやWii Fit は、家族みんなでプレイしています。(これって結構凄い事だと感じます。)
楽しいゲーム、もとい、この時間と経験をありがとう。
そして、任天堂がこれからも、山内溥氏から、岩田聡氏からの意思を引き継ぎ、新しい世界を作る事を応援しています。
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