家までの帰り道

「住むなら戸建がいい。マンションなら3階より低い所がいい」


結婚して何年目かの冬の日、駅までの道を一緒に歩きながら妻はそう言った。
1歳になったばかりの長男は妻の抱っこ紐の中で眠っていた。

妻の言葉の意味がよく解らなかった私は、この言葉だけをずうっと覚えていた。
彼女の実家は戸建で、私の実家はマンションだった。

私の独身時代からアパートの暮らししか知らず、人生で一戸建に住んだ経験が無かった。


(戸建とマンションなら、妻は住み慣れた「戸建」がいいのだろう)


そのぐらいにしか私はこの言葉の意味を考えていなかった。

いや、考えることが出来なかった。


今にして思えば、妻は「マンション VS 戸建」の話をしたいわけではなく、「そろそろ家が欲しい」事を、鈍い旦那に伝えたかったのだと理解できる。


言い訳にしかならないが、当時の私は今よりもずっと余裕がなく、土日祝を問わず目の前の高く次々に積み上げられる仕事という荷物を、毎日必死に片付けるのに精一杯だった。

「家を買おう」と妻に告げる

そして時は流れた。


気がつけばあの時1歳だった息子は中学に入り、下の娘も生まれて小学校の折り返し地点を過ぎようとしていた。

そして、私達夫婦はともに40代を迎え、4人家族で賃貸マンションで暮らしていた。

年齢だけではない。あれから色んな事が変わっていた。

一番大きな変化は、「新型コロナ」と呼ばれた社会現象とそれに伴う生活習慣の変化だった。

  • 私の仕事はテレワークが増え、家で仕事をする機会が多くなった
  • 子供達も大きくなり、それぞれの部屋を欲しがっていた
  • 妻は私とは別の寝室で寝たいそうだ


あの時は家を買おうと思えなかったが、今がそのタイミングなのかもしれない。

そして、2020年の冬、私はようやく

「家を買おう」

と妻に告げたのだった。

「戸建」か「マンション」か、それが問題だ


私の言葉を聞いた妻は最初は驚いたような顔をしていたが、すぐにこう切り出した。

「私、家を買うならマンションがいい」

「え?」

「住むなら戸建がいい。マンションなら3階より低い所がいい」

あの言葉を聞いてから10年以上が過ぎていたが、私はこの台詞を覚えていた。

それまで私は、妻が「マンション」より「戸建派」と認識しており、

「マンションなら3階より低い所」

選択肢を大幅に減らすこのワードも、戸建に舵を切らせる言葉と考えていた。

「駅近のマンションが楽じゃない?24時間ゴミも出せるし。」

ところが蓋を開けてみれば、妻はいつの間にか「マンション派」だった。

一方私の気持ちはもう一方の派閥である「戸建派」に傾いていた。

きっとあの言葉を長年胸にしまい過ぎたせいだろう。

「マンション派」と「戸建派」

家を買う、という同じカテゴリの中で、決して交わらない二つ。

私とは寝室を別にしたい妻の気持ちに少し似ていた。

妻は言った。

「マンション、嫌なんだ?」

顔には出してないつもりが、おそらく態度でバレバレだったのだろう。

「その反応だと、あなたは戸建がいいんでしょ?」

「例えるなら、すごくお腹が空いてる時に苦手なメニューしかない店に連れていかれた気分。」

「戸建がいいのよね。マンションよりも戸建が。」


明らかに抜き身のトゲがある言い方。

参った。さっそく夫婦間で意見が分かれてしまった。

これからどうしたらいいものか。

ひとまず、マンションも戸建も色々な物件を見て回るのがいいだろう。

こうして私達のマイホーム探しは幕を開けたのだった。

次回:「戸建?」「マンション?」妻と意見が分かれた時の解決方法

By えいひれ

二児のパパです。ウェブのお仕事をしている傍ら、子供と一緒に遊ぶ日々。

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